深セン前海と香港をつなぐ越境鉄道「港深西部鉄路」:巨大新都市建設計画(4)

シリーズ化してお伝えしてきた香港の北部新都市計画の中には、深センの発展著しい経済特区として有名な前海と香港をつなぐ越境鉄道「港深西部鉄路」にも言及されています。当路線は香港MTR「屯馬線」とも接続し、周辺エリアの発展が期待されています。

一方で、北部の自然豊かなエリアをこんなに開発しまくって生態系破壊しないのだろうか…と思いきや、意外な事実も明らかに。

「北部都会区発展策略」

10月6日に発表された香港行政長官、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏による2021年施政報告の「北部都会区発展策略」。概要については前回の記事をご覧ください。

今後の香港と深センに大きな影響を与える「北部都会区発展策略」には、主に以下の計画が含まれます。

1、香港の中心を香港島から北に移動させる開発計画「新田科技城」

2、香港と深センの新たな入出境管理施設(口岸)開設と一地両検」

3、香港北部の地下鉄(MTR)路線「北環線」「東鉄線」延長計画

4、香港と深センの経済圏である前海を結ぶ新しい越境鉄道「港深西部路」、周辺湿地帯など約2,000ヘクタールの地域の環境保全

過去4回に分けてお伝えしてきたこの北部新都市計画。最終回となる今回は、香港と深センの経済圏である前海を結ぶ新しい越境鉄道「港深西部鉄路」について、そして北部周辺湿地帯など約2,000ヘクタールの地域の環境保全についてお伝えします。

深セン前海と香港を鉄道で結ぶ港深西部鉄路」

既報の通り香港新界北部地域で新たな地下鉄(MTR)路線が開設されますが、香港と深センとの交通の便をより良くするために港深西部鉄路」(Hong Kong-Shenzhen Western Rail Link)の建設が計画されています。

実は当初「港深西部快速軌道」として以下のような案が出ていましたが、計画は一旦棚上げとなっていました。今回の一連の開発計画の中で地図上のオレンジのラインが再び動き出した、というわけです。

ちなみに、赤線の深セン空港と香港国際空港を結ぶ路線の続報は聞かれていません。まだ時期尚早なのかもしれません。

Image via 深圳特区报

港深西部鉄路は、香港の洪水橋(Hung Shui Kiu)と深センの前海を結ぶ越境鉄道路線で、洪水橋は香港の屯門を起点とするMTR屯馬線に新設される駅(2024年建設開始、2030年完成予定)です。

港深西部鉄路の始点となり屯馬線とも接続される洪水橋の周辺エリアでは、居住者や労働者の人口が大幅に増加することが見込まれています。地元ではすでにレストランや観光施設の強化に動いているとのこと。

新界と前海を結ぶこれらの路線は、先日発表された前海開発スペース拡張をサポートするものであると期待されています。

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当鉄道プロジェクトは2025年に開始され、2034年に完成する予定です。完成時には洪水橋と前海の間の距離は約16km、移動時間は30分になると予想されています。

公開された以下の計画図を見ると、深圳湾大橋を使わない路線になるようですね。流浮山から深圳湾口岸に向かって海底を通るのか、それとも新たな橋をかけるのか…

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白泥と尖鼻咀を結ぶ自動運転車両路線も計画中

深圳湾口岸と橋を跨いで対岸に位置する香港の海沿いエリア「白泥」(Pak Nai)と「尖鼻咀」(Tsim Bei Tsui)を結ぶ自動運転車両路線も計画中です。当路線は港深西部鉄路と「流浮山」で接続されます。周辺エリアは香港と深センを行き来するワーカー達にとってアクセスしやすくなるため開発が進み地価も上がりそうですね。

北部湿地帯の保護

一連の北部建設計画で気になるのは、アジアで最も生物多様性の高い湿地のひとつと言われる湿地帯。

多くの生物種の生息地であり、渡り鳥の重要な中継地にもなっているこれら生態学的に重要な北部湿地帯は、過去数十年の間に「自然保護区」「海岸保護区」「沿岸保護区」として指定されており、開発が抑制されてきました。

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しかし、資料によると新界北部にはまだ放置されたままの無駄な土地がたくさんあり、保全すべき湿地や生息地が放置された結果、劣化の一途を辿っているのだそう。養魚池は放棄され、湿地帯は無許可の開発によって干上がり、さらにダメージを受けている、と指摘されています。

開発計画概要では、大湾区の開発を推進する一方で、重要な生態系の保護・修復を実施し、生態系回廊や生物多様性保護ネットワークを構築し、生態系の質と安定性を高めることを提案。民間の農地を復元し、湿地や養魚池を再利用して、放棄された多くの生息地(推定総面積約700ヘクタール)を回復させます。

民間の湿地や養魚池の再開後、政府は隣接する政府の土地と合わせて多機能な湿地保全公園を設置します。以下の地図にあるように米埔自然護理区、香港湿地公園、塱原自然生態公園が統合されます。

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豐樂圍(Fung Lok Wai)や南生囲(Nam Sang Wai)といった周辺の湿地帯も政府が保護することになっており、CK AssetとHenderson Land Developmentによって土地と住宅プロジェクトが計画中です。

コストの問題は?

当計画は都市発展のための大きな戦略的変化となりますが、一方で香港行政府は香港島の西側でも10億ドル規模の埋め立てプロジェクトも進めているため、財政への負担を疑問視する声も出ています。

キャリー・ラム行政長官は、コストに関する懸念に関して「香港で一番儲かるのは土地です。土地を開発する過程で赤字になることはあり得ない」と答えると同時に、このプロジェクトは一政権で実現できるものではないが、香港の利益のために働く政府はこの道を進まなければならない。と述べ、次のリーダーが計画を変更することを心配していないと語っています。

また、深刻な土地不足に対処するためには、この新しい北方都市計画とランタオ島の東側海域の大規模な埋め立てプロジェクト「Lantau Tomorrow Vision」の両方が必要であると述べ、ランタオプロジェクトの開始は1年前倒しの2026年になりそうだと付け加えました。

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一連の香港北部新都市計画は、「新田科技城」開発、入出境管理施設(口岸)の一体化、香港地下鉄(MTR)の新路線拡張や深センへの乗り入れ、そして越境鉄道港深西部鉄路」など一つ一つが新聞の一面に載るレベルのビッグプロジェクトです。すべてが計画通りに進むかは分かりませんが、10−15年後の景色は大きく変わりそうですね。


ExpatHub:Hong Kong to build huge new city on border with Shenzhen

Shenzhen Daily:HK unveils metropolis plan, eyes deeper SZ-HK integration

深圳特区报:香港提出港深融合大动作!拟建300平方公里北部都会区

深圳卫视深视新闻:林郑月娥释放重要信号:从“香港所长”到“港深所长”

深圳口岸发布:香港特区行政长官林郑月娥:建设“双城三圈”以促进港深紧密合作

inmediahk.net:【施政報告】林鄭宣布發展北部都會區 將容納250萬人居

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