深センについて調べたい時、皆さんは何を情報源にしていますか?
深センは世界中から注目されている都市ですが、どうしてこんなに有名になったのか?深センの発展の歴史などを知る上で私もすごく参考になった一冊の本をご紹介します。
よく日本の製造業と比べられる、深センのサプライチェーン(=原料から製品が生産されて消費者に届くまでの一連の繋がり)についても分かりやすく書かれてあるこの本。皆さんも読んだことがおありかもしれません
それは…
「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing)
この本です!!
かなりの人が読んでいるであろうこの本。Shenzhen Fanとしては紹介しないわけにはいかないので、今回紹介させていただきます!
書籍が苦手な方は買うのを躊躇しているかもしれませんが、この本を読むと読まないとでは、深センに対する見方や理解度が圧倒的に違ってくるのでめちゃくちゃオススメなのです!
そこで、今回は特におすすめな部分を独断でピックアップしてみました。
目次
著者は藤岡 淳一さん
この本の著者は、深センで日本のスタートアップを支援して様々な製品を作り続けているJENESISの藤岡淳一さん。
藤岡さんは、2001年から深センで電子機器の開発・製造を行なってきました。
深センがすごく盛り上がったのはここ数年ですが、それよりはるかに前から藤岡さんは深センの真ん中で様々な中国企業と交渉したり信じられないような経験を幾つもしてきたので、私たちが知りたくても知ることのできない貴重な情報をたくさんお持ちです。
その藤岡さんが出版したこの本は、藤岡さんの深センでの体験談を事細かにアウトプットしたもの。
つまり、私たちの本当に知りたかった深セン情報、なのです!!
この本のすごいところ
情報量がすごい
まずこの本、ものすごい情報量です。
私は深センに来てまだ3年半くらいなのですが、「ハードウェア」とか「サプライチェーン」とか「エコシステム」とか、そういった類の言葉はそんなに詳しくなくて、深センの超有名な华强北電気街に行っても、「あぁ、なんか色々売ってるな」程度でした。せいぜいiPhoneのケーブルとかgoproのパーツを買うくらい。
しかし、この本を読むとそのあたりの知識レベルが一気に引き上げられるんです!(←本当です)
もうちょっと具体的な点を挙げると…
世の中の仕組みが分かる
世の中の仕組みが分かるようになるのです!
これ、ちょっと大げさな言い方に聞こえますが、例えば本の中には「白牌」「貼牌」また「山寨」といった単語が出てきます。これらの単語、すごく重要な言葉でちょっと解説しますと
- 白牌 (báipái):白紙のノートのように、後から別のブランドが書き込めるノンブランド製品
- 貼牌 (tiēpái):「白牌」製品に、ブランドを書き込む行為
例えば日本の家電量販店で大手メーカーよりもはるかに安く売っている、知らない名前のメーカーとかプライベートブランドとかの電化製品(デジカメとか液晶テレビとかDVDプレイヤーとか)がなぜ安いのか?そのカラクリを知るのにカギとなる言葉なのです。
- 山寨 (shānzhài):コピー品・海賊版
これも大事な言葉。「(山賊が住む)山の要塞」を意味するようですが、電子機器の分野では製品の基板とか金型が出回っているので、深センの零細企業はこういった基板などを買い付けて組み立て、山寨製品を大量に作って売りさばくのだそう。
こういった裏側を知ると、賢い買い物ができるようになるわけです。
家電量販店の隅に置いてあった激安商品は、実は…
藤岡さんは、この深センのネットワークを活用して、日本のデジタル家電市場に新たな風を吹き込みます。
コンセプトは「家電量販店の隅に置いてある商品」。
例えば、機能を絞ったデジカメとかDVDプレイヤーなどを1万円台で作り(大手メーカー製では5万円以上するような価格帯なので)家電量販店の目玉商品として売り出すという戦略だったそう。
中国一般の「貼牌」は、そのままブランドを付け替えて売り出すだけのようですが、藤岡さんの会社は違っていました。チューニングを施し、製品の品質を上げ、日本の独自規格に合わせたりして日本市場の求めるレベルに引き上げていったのだそう。
そういえば当時、私もよく仕事帰りに家電量販店で激安デジタル家電をチェックしてました!日本は2000年代から深センの恩恵をかなり受けていたんですね。
2000年代の時に、10代、20代、30代だった方は多いと思いますが、そういった方々にとっての懐かしい商品が本の中に幾つも出てきます!
わたしもその1人で、当時は裏事情など分からずただの消費者として買っていた製品には様々なドラマがあったんだと言うことが分かるのが面白いですね。
近未来ガジェットの開発
藤岡さんは、今から15年前の2004年に腕時計型テレビを開発したことがあります。
覚えている方もおられるかもしれませんが、当時は近未来ガジェットとして話題になったこの製品、インプレスにも紹介されて記事は今でもネットで見ることができます↓
AV Watch <週刊 デバイス バイキング>:腕時計型テレビ登場! 実売2万円の“近未来”製品の実力は? NHJ 「VTV-101」
仰天エピソードも
一例をあげると、日本の量販店で大人気だった激安デジタルカメラ(確か私も買ったことあります)の多くは藤岡さんが手がけたものなのですが、香港の展示会に行くと、藤岡さんの手がけたトイカメラのコピー商品が展示されていて、しかもはるかに安い値段だったのだそう。
そこで、その工場に行ってみるとなぜそんなに安く作れるのかの秘密が分かった。など興味深いエピソードが書かれています(続きは「第1章 コピー商品の洗礼」から!)
深センの歴史も分かる
例えば华强北の成り立ちは
電子機器製造の工業団地
↓
部品を簡単に売買できる市場
↓
電子機器の卸売市場
このように変わってきましたが、製造業の第一線で活躍されてきた方の目線で解説しています。
他にも深センの代表格、ファーウェイ、テンセント、ZTE、フォックスコンなどの歴史も紹介されています。
深センはスピードが速くて変化が激しく、これからどうなるか世界が注視しています。
個人的には、今までの歴史の流れをここで一旦ちゃんと把握しておかないと、もやっとした適当な予想しかできないのではないか、と思っています。
特に製造業に携わる方は今後のビジネスに大いに参考になる点(中国人の性格とか…)がたくさん書かれているのでおすすめなのです!(詳しくは「第1章 深圳の歴史」を参照)
日本企業の問題点
これは色々な方面でよく指摘されていることですが、深センで長年ビジネスをしてきた藤岡さんの目から見た日本企業の問題点なども書いています。
例えば、長い会議をしても結局何も決まらなかったり、大人数で出張し、30分くらいで終わる工場訪問も丸2日かかかり、無駄な時間を浪費することでコストも跳ね上がり、その分製品の価格も高くなる、という悲しい現実も…(「第1章 コピー商品の洗礼」など)
深センの弱点
ここまで読むと、「深セン素晴らしい!」という深セン礼賛本なんじゃないかと感じる方もいるかもしれませんが、深センの弱点・問題点もはっきり指摘しています。
例えば、深センのエコシステムを使った製品開発は安く速く作れるけど、日本など外部の部品を合体させて作ろうとするととたんにコストが跳ね上がる、とか品質のばらつきが大きい、とか部品のメーカーが倒産したりして市場から消えるスピードもめちゃくちゃ速いので、同じものを一年後には作れなかったりするのだそう。
また、苦労して作った金型は簡単にコピーされるし、自分の非を認めなくて逆ギレして問題をうやむやにしようとする部品メーカーに翻弄される日本企業も多いようです。
それでも深センのエコシステムを活用するメリットは非常に大きいので、どんな対策を打てばよいのかを説明しています(「第3章 深圳の弱点/中国人の雇い方/中国人が分からない」あたりがおすすめ)
格安スマホ・ドライブレコーダーなど、日本の先進メーカーとの開発
数年前から日本ではドライブレコーダーや格安スマホが浸透し始めましたが、JENESISはその中でも特に話題になったイオンスマホとJapanTaxiのドライブレコーダー/デジタルサイネージ端末(タクシー座席後部にある液晶モニタ)を製造したのだそう!
品質を保証しながらも価格を抑えたこれらの商品は大成功。イオンスマホはフォックスコンと協力して作り上げたのだそうです!(「第4章 日本交通の川鍋会長との出会い、イオンスマホというチャンス」)
日本のスタートアップへのアドバイス
様々なエピソードとともに藤岡さんは日本のスタートアップに向けた詳しいアドバイスを送っています。(「おわりに IoT時代におけるハードウェア規格〜製造のノウハウ/日本のスタートアップ、製造現場、行政に伝えたいこと」)
スタートアップのみならず製造業に携わる方々にはすごく参考になる内容だと思います!
高須 正和さんからもコメントが!
今回この記事を書くにあたって、本の編集協力をされた高須正和さんにもお忙しい中コメントをいただきました!
高須 正和さんプロフィール:
無駄に元気な、Makeイベント大好きおじさん。DIYイベントMaker Faireのアジア版に、世界でいちばん多く参加している。
日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』や『ニコ技深圳コミュニティ』の発起人。
MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加。
インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、早稲田大学非常勤講師。
著書「メイカーズのエコシステム」「世界ハッカースペースガイド」訳書「ハードウェアハッカー」ほかWeb連載など多数
深圳には世界中から資本とノウハウが投入され、イノベーションの街となった。中国政府は「第二の深圳」を作ろうといくつもプロジェクトをしているけど、まだ深圳のようになった街はない。
そして、日本の製造業は深圳の発展に大きく影響を与えているのだけど、工場で働いてる人をあまり見かけなくなった今、製造について正確な言葉を伝えるのは難しくなってきている。
WIREDの特集や「メイカーズのエコシステム」(藤岡さんが共同発起人となっている、ニコニコ技術部深圳コミュニティで、僕が中心となってまとめた本。藤岡さんも一章を寄稿している)が出版された2016年から、深圳は毎日のようにメディアで見かけ、多くの日本人が訪れる場所になったが、ハードウェア製造の実態、イノベーションが生まれる場所については、まだほとんど知れ渡っていないといえる。
その中で、藤岡さんの初めての単著「ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ」からは、
・深圳がイノベーティブな場所になった過程
・日本のハードウェアビジネスがどう発展してきて、どう「今は革新的な製品を作りづらく」なってしまったか
という社会構造や歴史を俯瞰して見ることができる。
そして何よりも、エンジニアであり起業家でもある藤岡さん本人語る経験から、
・スタートアップとは何か
・会社を経営し、製品を世に出すとはどういうことか
という実際が、圧倒的なエネルギーを伴って伝わってくる。
著書にも一部記載されているが、スタートアップの補助はさほど実入りの良い仕事ではない。にもかかわらず藤岡さんは今も、忙しい合間を縫ってさまざまなスタートアップを助けている。
僕たちは毎日ハードウェアに取り囲まれて生活している。電子機器なら多くは深圳のまわりで作られている。多くの新ビジネスで独自のハードウェアが必要になる。この「ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ」は、そうしたハードウェアについての理解を深めてくれる。
僕自身はその後深圳に住みつくことになったが、この「ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ」は、今でも数ヶ月ごとに再読している。わかりやすく読める本だが、自分のハードウェアに関する知識が少し上がった状態で読むと、また別の言葉が見つかるので、今も何度も読み返している。
簡単なコメントをお願いしたのですが、こんなに詳しく書いてくださいました!(ありがとうございます!)
高須さんは文末で「何度も読み返している」とおっしゃっていましたが、そうなんです!これは何度も読み返す本なのです。
目次からテーマごとにピックアップして読み返すのもいいですね。
本の購入はこちら!(Amazon、楽天ブックス)
【POD】「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ
藤岡淳一 インプレスR&D
by ヨメレバ
電子書籍の方が安いですね。Kindleで試し読みもできると思います!(いつもできるかは分かりませんが)
世の中たくさんの本が氾濫している中で、買って後悔することのない良書です。