【ニコ技深圳コミュニティ】深圳のスタートアップ、深圳の街を見る面白さ、自分に残るもの

深センを拠点とし、JENESISおよびアイワマーケティングジャパン代表の藤岡淳一さんと共に「ニコ技深圳コミュニティ」という日中の技術愛好家達とのコミュニティを共同創業した高須正和さんより寄稿をいただきました。

特に深センのスタートアップに興味のある学生・技術者の方にとって必見の情報です。

Shenzhen FanとCEOの荒木さんにはいつもお世話になっています。ここ数年、金沢大学融合学域は深圳への短期留学プログラム(学部3年生が対象)を行っています。プログラムを指導する秋田純一教授の研究室で学生をしている自分も協力しているのですが、深圳の情報は主にShenzhen Fanのリンクを送っています。

8月に荒木さんが深圳に来た際、寄稿を依頼いただき、短期留学プログラムの学生向けに書いたこの文章が、深圳のスタートアップに興味を持ち、初めて深圳を訪れる人が読むなら、学生にかかわらず役に立つと思いました。


僕はスイッチサイエンスという日本企業の国際事業開発として、深圳をベースにエンジニア向けのハードウェア、IoTセンサーやマイコンボード、モーターなどを日本に輸入する仕事をしています。また、中国深圳で、iMakerbaseHeroad Fundのメンバーとして、スタートアップ支援や投資の仕事をしています。金沢大学自然科学研究科博士後期課程(秋田純一研究室)の学生でもあるので、今回の金沢大学融合学域・深圳留学プログラムに関わっています。

まいにち多くのハードウェアスタートアップと触れ、彼らの製品がどう使われるか、どのように世間から見られるか、一緒に仕事して日本で売るうえでの問題はなにかについて考え、質問し、意思決定しています。それは技術開発や製品開発と呼ばれることも、マーケティングや市場開発と呼ばれることもある仕事です。

境界を超えることでスタートアップは市場を創る

自分が深圳のスタートアップを見ていて感じる魅力は、「境界を超えて意思決定ができることで、商機を掴んでいるスタートアップが多い」ことです。

安副教授(日本の准教授に当たる)のスタートアップ「Future Vision」を例に上げます。南方科技大学で、皆さんにFPGAに関する講習をしてくれた安先生は、自分でも専門分野である画像処理の技術を市場化して、Future Visionを起業しています。Future Visionはカメラを2つ使い、2つの視差を利用することで、人間が2つの目で奥行きを感知しているように、3Dの映像を取得する製品「3Dカメラ」を開発しているスタートアップです。3Dカメラは自動運転やサービスロボットの分野で活用されていて、多くの会社が3Dカメラを開発していますが、安先生のFuture Visionは、カメラから画像処理チップに画像を転送しながら連続的に処理を行うチップを独自に開発したことで、一般的な3Dカメラ(1フレームごとに画像を転送して、転送後に処理する)に比べて、低消費電力になっています。

安副教授による南方科技大でのFPGA授業風景。学生たちは技術系でなく、初めての分野の授業を英語で受けることになったが、良い経験になった。(高須正和氏撮影)

技術的な境界

3Dカメラは複合的な技術で、良い光学的カメラ・良い信号処理・良い3D処理・それらを巧みに設計して一つのチップにまとめるなど、複数の技術分野から成り立っています。処理のアルゴリズムに関する研究のような抽象性の高いものと、チップ内部の設計のような具体性の高いものは、一般的には別々の部署、別々のエンジニアが担当しています。

開発中の3Dカメラデモ。低消費電力でかつ高性能(広い範囲で正確に3D深度情報がとれる)を実現している(高須正和氏撮影)

プロダクトマネジメントとサプライチェーンの境界

また、そうした設計を実際に工場に発注して製品化するには、発注量と価格のバランスを見つける必要があります。チップを製造する工場は、小規模なスタートアップからの発注をいつでも受けてくれるわけではなく、「自分の会社にとって最適な発注方法と価格」を伺う必要があります。そのバランスは、ムーアの法則によって短期間で変化します。Appleのような大企業は、「とにかくいちばんいいやつ」を頼むことができますが、スタートアップは違います。

会社のステージ(経営)とプロダクトマネジメントの境界

また、そうやってタイミングを伺うには、自分の思ったタイミングでお金を使える必要があります。

安先生のチームは、安先生自身が複数の分野にまたがって研究するチームを率いることで技術的な境界を超え、安先生自身がプロダクトの設計を指揮することでサプライチェーンの境界を超え、また安先生とパートナーがCEOとしてコンビを組むことと、ほかからの大きな投資を受けずに経営を続けることで会社のステージの境界を超えて、他の大きな企業ではできない意思決定をすることができています。

境界を超えることで深圳は技術を市場化する

僕は学生皆さんと一緒に8月26日に安先生の会社Future Visionについて説明を聞き、デモを見ました。会社としてとても有望に思えたし、自分の関係するHeroad Fundで投資するタイミングに向いていると思ったので資料をもらってチームに共有し、9月3日には投資部のマネージャーと一緒に、再びFuture Visionを訪問しました。自分は投資に関する意思決定者ではないですが、9月12日に確認したところ、Future Vision,Heroad Fundとも、相手を高く評価する出会いになりました。

Heroad Fundはガストなどで配送している猫型ロボットPuduに最初期から投資しているほか、多くのサービスロボット企業に今後も投資を広げていくつもりです。Future Visonは製品開発, Heroad Fundは投資と、仕事の分野は違いますが、お互いの技術と判断に関する知見はほぼ一致しました。また、どちらも複数の知識を少人数で把握し、技術と商機を共にハンドリングすることで他の人には難しい意思決定を行い、境界を超えることでビジネスを拡大しようとしています。こうした姿勢は、うまくいっている深圳スタートアップの多くに共通するものです。

どうやって境界を超えるのか?

技術と経営、製品開発と投資など、分野が分かれていることは、分かれるだけの理由があることがほとんどです。両方やろうと思うと単純に倍時間がかかります。実際、深圳の人たちは自分のゴールのためにいくつも異なる仕事を抱えていて、それぞれを連携させてすごい勢いで働いています。この「勢い」は成長中の企業ではよく見られますが、それが集まってより加速しているのが深圳の特徴です。中国政府は国内で何度も「第2の深圳」的な地域開発プロジェクトをやっていますが、深圳のような勢いは深圳だけです。この勢いは、この街に集まる多くの人が、自分のために仕事をし、それが相互作用で街を創ることで出ているものです。

僕自身も、もともとも今も単なるイベント好きの技術オタクですが、シンガポール、深圳と移り住む中で、関わる人間や仕事のスタイルが変わり、複数の分野・業務にまたがって、新しい事業を生み出すことでお金をもらうようになりました。今の分野の仕事をしていて、深圳にいて日本語ネイティブなのは自分ぐらいです。語学ほか、「面倒だけど、必要だから仕方なくやった」ことに投じた時間は多いし、今も「あー、あれは失敗だった」と思うことは数多くあります。ですが、そうやって複数分野にわたって走り回りながら考えることより、効率的なやり方はなかったようにも思います。ドローンであれ、機械学習であれ、あまり自分の本筋と関係ないと思ったことも、面白いと感じてやっていると、世の中の流れでなにか仕事につながることは多い。 なので、興味がある分野や、重要と思った分野は、なるべくそこに時間を使い、関係する知人を増やしていく、彼らと話が通じるようにしていくことが、深圳に限らず、新しい仕事をするときには大事なのだと思います。今後も深圳で時間を過ごすことで、自分の中の境界をこえて新しい分野に踏み出し、社会と新しい関係性を築いていければ、自分も嬉しいです。

高須正和さんプロフィール

高須正和 ニコ技深圳コミュニティ Co-Founder

事業開発、研究者、コミュニティ運営の3分野で活動している。

事業開発:Maker Ecosystem Ltd(HK)CEOほか、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンス、深圳市大公坊創客基地iMakerbase,羲融善道(深圳)創業投資、MakerNet深圳等で、オープンハードウェアの開発・投資・輸出入。

研究:ハードウェアプロダクト開発、オープンイノベーションが研究分野。早稲田大学リサーチイノベーションセンター招聘研究員、ガレージスミダラボ主席研究員、大公坊創客基地(中国深圳の国家級インキュベータ)メンター、インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長など。

コミュニティ:日中の技術愛好家達とのコミュニティ「ニコ技深圳コミュニティ」の共同創業者。同コミュニティは「深圳のイノベーション環境について、英語圏含めてもっとも充実した情報(野村総研総合研究所)」と評価されている。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。早稲田大学非常勤講師。

著書に『プロトタイプシティ』(角川書店、第37回大平正芳賞)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』『遠くへ行きたければ みんなで行け』(技術評論社)など ほかweb連載など多数。

https://note.com/takasu/n/n411063be9634

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事