
深セン・広東省を中心に活躍されている吾友コンサル(吾友咨询)の隔月News Letterです。
今回は、中国における人々の購入行動の変化について、爆発的人気を集めているPOP MARTのキャラクター「LABUBU」等を例に深い考察がされています。また深センで富を得た人たちや経営者たちの取る行動について紹介されています。
目次
消費社会に生きる本来の自分への道:物質への執着を経て自己実現へ
吾友コンサルティング総経理 劉真(Vivian Liu)
2007年、中国がまさに「世界の工場」として成長を遂げていた時代、単身日本に留学した私は、東京の繁華街に立ち、所狭しと並ぶ商品群に目を見張るほどだった。ドラッグストアでは、1つのアイテムから数十種類もの機能別バリエーションが派生し、一つのコーナーで多様なソリューションを提供している。その品揃えの豊富さには、ただ圧倒されるばかりであった。「超商品化」社会の環境下で消費者にもたらされるのは、衝撃だけではなく、選択の戸惑いもあった——いったいどれを選べばよいのか?


この20年間、技術革新と情報爆発、物流の飛躍的発展を経て、中国の物質経済も目覚ましい発展を遂げた。かつては、欲しい商品を求めて人々は休みを利用し、交通機関を乗り継ぎ、地元のデパートを巡ったものだ(ネット購物は偽物リスクから選択肢にすらならなかった)。海外の高級ブランド品ともなれば、近隣の大都市へ足を伸ばすか、旅行や出張で海外に赴く必要すらあった。高額商品なら数ヶ月の節約と熟慮を重ねてようやく手に入れる。そうして得た品に、幾日間も胸を躍らせたものだ。
今や、モバイル決済・デリバリー・ECサイトの急成長により、数週間〜数ヶ月かかった購入プロセスは「翌日配達」へと変貌した。価格はもはや問題ではない——クレジットカードのリボ払いや分割払いなどが選択できる。購入した商品をじっくり味わう間もなく、新製品が登場すると、人々は瞬く間にそれを新たなターゲットに据える。
自分の消費体験と観察に合わせ、消費主義の拡大を駆動する心理的要因として以下が挙げられると考えている。
1、消費による即時的ストレス解消
速い都市生活のリズムの中、消費者は買い物による即時的快感でストレスを発散し、情感のよりどころを求めている。最新スマホ発売時には正常に使用可能な現行機種を捨ててでも特定新機能を体験しようとする人々。ある商品(具体例として、最近爆発的人気のLABUBU/ラブブなど)が流行すると、瞬時に世界中の消費者の支持を集める現象も現れる。ライブコマースで熱狂的なキャスターの煽り文句に乗せられ、必要のない商品を衝動購入した挙句、後悔に苛まれるといったケースも珍しくない。

Netflixドキュメンタリー『Buy now! The Shopping Conspiracy(直訳:今買え!消費の陰謀)』が指摘する通り、人はTシャツも靴もこれ以上は必要としない。求めているのは購入を正当化する説得力ある理由に他ならない。世界の大手ブランドは様々な手法で、即時購買を誘発し、消費者の思考時間を圧縮、モデルチェンジサイクルの短縮を図ることで、消費促進という究極の狙いを実現している。
しかしながら、この即時満足メカニズムこそが、消費行動そのものの喜びを薄れさせ、さらに深刻な問題として、人間の満足遅延能力を徐々に損なっている。その影響は購買行動に留まらず、集中力の著しい低下、自制心と忍耐力の欠如、誘惑に直面した際に長期的な価値より短期的利益を選んでしまう傾向など、生活全般に悪影響を及ぼしている。
2、同調消費の拡大
同調消費とは、消費者が周囲の人間関係やSNS、インフルエンサーなどの影響を受け、他者の購買ブランドや消費トレンドを模倣する行動パターンを指す。この現象の拡大は、一方で「消費行動を通じた社会的承認の獲得欲求」という人間心理を反映し、他方でデジタル社会の発展が生んだ必然的帰結と言える。実際、インフルエンサーの仕掛けた流行に誘導され、人々はこぞって「インスタ映えスポット」を巡り、SNSへ投稿を拡散する。一方、メーカー側はこの仕組みを的確に把握し、多数のインフルエンサーや芸能人を起用したプロモーションを通じて、様々なマーケティング戦略により同調消費を促進している。
3、顕示的消費とアイデンティティ不安
ブランド品や高級車、豪邸に代表される顕示的消費の背景には、往々にして「社会的ステータスへの不安」が潜んでいる。人々は消費行動を「地位の象徴」と見做し、購買行為を通じて社会的承認を得ようとする。このメカニズムが、中国において大都市から地方都市に至るまで高級車が溢れる光景を生み出し、世界各国のブランド店で「中国人買い付け客」の存在が目立つ根本的な理由である。景気後退期であっても、億単位の高級分譲マンションが即日完売するニュースが報じられる背景にも同様の心理が働いている。中国奢侈品研究所(CLI)の調査によれば、1995年以降生まれの消費者の72%が「職場での立場を誇示するため」に高級品を購入しているという。


一方、物質生活への過度な追求は、心の平穏や精神的な充足感をもたらさず、自己の本質的な価値を見出せないばかりか、むしろ人々を無力感と焦燥に陥らせる。このパラドックスは、中国に数多く存在する「解体補償世代(家屋解体による補償金受給者)」の生活に如実に表れている。経済先進都市の深センでは、家屋解体で巨額の補償金を容易に得た人々が、生きがいや方向性を求めようとして、デリバリー配達員、不動産の販売員、警備員、清掃員といった職業を自ら選択し、一見地味に見える仕事に従事しながらも、充実した日々を送っているケースが少なくない。
プラトンが説くように、真に至高かつ本質的な実在は感覚が捉える物質世界ではなく、まさにイデア界にこそある。この理念を生活の指針とする最も効果的な方法は、「思考の灯」を点すことに他ならない。
コンサルティング業に携わる中で、近年出会った優れた経営者たちは、例外なく各自の分野に没頭し、卓越した知性と揺るぎない精神核を有していた。彼らは喧騒が渦巻く環境にあっても初心を失わず、常に目指すべき道を見据え、全精力を一点に集中させるのである。 このたびの日本出張では、数多くの大企業経営陣との会談の機会に恵まれた。本来ならば過密スケジュールで疲弊するはずの一週間が、得がたい収穫に満ちたことで、胸躍る日々となった。ある有名事務所の創業メンバーであるご高齢の先生は、年を重ねながらも、深い学識に裏打ちされた気さくな物腰で、毎日いきいきと中国史や世界史を研究していると語り、つい先日の欧州旅行での見聞を瞳を輝かせて披露してくださった。「人は世界を感じるだけでなく、思考によって世界を捉えるべきだ」と説き、思考の成果を文字に残すよう勧めてくれたのである。かつて大手日本企業の海外現法社長に長く務められており、弊社顧問である日本人の先生は、数十年変わらぬ勤勉な仕事ぶりを保ち、鋭敏な思考と豊富な知見をもって、「生涯学び続けることこそが叡智の源泉」と語る。昔中国で大変お世話になった元大手会計士事務所のリーダーパートナー、そして長野で再会した旧クライアントたちは、世の喧噪に左右されることなく、依然として親切で暖かく、誠実な生き方と仕事へのひたむきさを保ち続けていた。こうした優れた人々は、あたかも暗雲を突き抜ける陽光のごとく、迷霧を払い、進むべき道を示してくれるのである。

消費主義が蔓延する現代において、私自身も迷いと困惑を経験し、様々な消費の誘惑に抗いきれない時もある。こうした時こそ、私たちは書物に親しみ、優れた人々との対話を重ね、新たな知識と前向きな活力を得るよう努めたい。あるいは仕事に打ち込み、一つ二つの趣味を深く追求することで物質への執着を減らし、自らの真のニーズや価値観を見極め、流されずに理性ある消費を心がけたい。そうすれば生活は簡素さを増し、物質的な重荷から解放され、より心地よい生き方が実感できるはずだ。
マズローの欲求段階説が示す通り、人間は、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求といった基盤の上に、「自己実現」という最高次の欲求が存在する。自己実現は単なる個人の達成ではなく、自らの可能性を最大限に開花させ、理想と目標を具現化するプロセスである。この過程こそが人生の意義と目的を実感させ、やがて自己超越の境地へと導いてくれるのだ。
直近のトピックス
現時点では、中国は日本を含む47カ国を対象に、ビザ免除措置を実施している。海外観光客の国内消費体験の向上、関連産業の活性化、国際競争力強化を図るため、2025年より以下の通り、外国旅行客向け購入物品出境税還付政策を拡充した。
① 免税店拡充計画(登録条件緩和、設置場所多様化、・登録簡素化など)
② 消費ハードルの引き下げ:税還付最低金額を500元から200元に引下げ(同日同店舗で)
③ 還付サービス高度化
・全国展開する「即時払い戻し」制度
・現金還付上限額を1万元から2万元に引き上げ(振込還付は無制限維持)
④ その他施策:還付対象品目の多様化(伝統工芸品・国産ブランド等)と電子化サービス推進(電子領収書での還付処理可能)
吾友コンサルティングについて
吾友コンサルティングは中国で活躍する日本企業を対象に税務・財務・ビジネスのコンサルティングサービスを提供している会社です。みなさんの日々の課題や悩みをしっかり伺い、町医者のように親身になって的確なアドバイスを行っています。
当社の起業理念は、中国で活動する海外企業を中心にビジネスの成長を応援することです。日頃コンサルティングを通じて、多くのお客様がビジネスの小さな成功に止まらず、中国という国に向き合い、その特性などを深く理解した上でタイトに繋がろうとする姿勢を感じています。深い理解あればこそ、より大きな成功に結び付いていると思います。
皆さまへの更なる応援のために、当社総経理、Vivian Liuが業務を通じて感じたり、考えたことを記し、発信させていただくことにしました。当面、隔月です。
テーマに関し、文化・社会的な内容に加えて、適宜ビジネスの成功や失敗からの学びなど実践的な内容もカバーしていくつもりです。
また、当社と提携している会社、当社のお客様または知り合いなどにも寄稿をいただいております。
ぜひよろしくお願いいたします。
Vivian Liu 連絡先:
