「「香港留学行った人かわいそう、不運だね」と言われると全くそうは思っていません。
ビクトリアピーク(香港島の山頂)まで行くとデモの影響は微塵もなく、決して香港全土がどこかしこも危険な抗争状態にある訳ではないと実感させてくれます。
こうして静かに夜景を見ていると香港の夜景はやっぱり綺麗だし、山とか海の自然は全く変わらないのに人間だけが上でドンパチやってるんだなと」
彼女の名前は、広瀬 凜さん。香港大学に交換留学で来た東京大学の学生さんです。
広瀬さんは先日香港から深センの技術系コミュニティに参加して以来、香港に関する様々な情報を提供してくれました。
香港大学学生との寮生活(一部屋で8人!)を送り、バンド活動もしたり、楽しい日々を送っていましたが
香港各地の大学で起きた一連の衝突から東京大学も現地留学生を引き上げることを決定したため、広瀬さんもいったん帰国をすることになります。
よくメディアに取り上げられるのは「絵になる」過激な写真や内容がほとんどなので、日本におられる方々がデモ関連のニュースを見ると、香港全土が危険な状態という印象を持つ方が増えていますが、実際はどうなのでしょうか?
広瀬さんは香港大学の交換留学生として、同じように留学で来ている日本人の学生や地元の学生、そして中国大陸から来ている学生との交流を通して、彼らが何を感じているのか、現地学生の生の声を教えてくれました。
デモの是非や政治的な主張とは距離を置いた別の観点から、今の香港についてお伝えします。
目次
(10/4)緊急法成立とクラスメイトの反応
10月上旬から、緊迫感が高まってきました。
緊急法(デモ隊のマスクや覆面の着用を禁止する「覆面禁止法」)の成立により、香港全体の緊迫感の高まりを肌で感じています。
香港大学のキャンパス内で「今日やたらマスクの人多いな〜」とのほほんとしていましたが、あとからSNSで言わずもがなその理由を知るところとなりました。
身の回りはどんな感じかと言うと、
クラスメイトとのWhatsAppグループでアメリカ政府への嘆願の署名集めのリンクが回ってきたり、大学の友人がインスタのストーリーで政治に関する意見を述べていたり、逆に中国本土出身のクラスメイトが身の危険を感じていたり、中国人と香港人の壁がより厚くなってしまっているようだったり、夜や週末は武装した警官を街中でよく見るようになったり、電車がよく止まって出口も閉じられてしまうので友達と会うこともできなくなったり、建物から飛び降りようとする人とその下のたくさんの消防車と野次馬を見たり、デモに向かう群集に巻き込まれて靴を無くしてしまったドームメイトのために靴を届けに行ったり…
私自身はまだデモの現場に出くわしていないですし、メディアで主に取り上げられているような暴力的なシーンはあくまで一部であって大半の日常生活や大学の授業は普通に行われているのでご心配はいりませんが、これからまた一層紛糾していくことは必至ですね。
大学生たちはグループチャットやSNSで情報交換を頻繁に行なっているので、周りの学生がどんなことをしているのか、何を感じているのかよく分かるようです。
日本では全く関係のない他人事になってしまう
このあと広瀬さんは一旦日本に帰ります。香港の騒乱と比較して、こんなコメントを残しています。
地球上の場所がちょっと違うだけで、あっちでは生活に関わる一大事なのが、こっちでは全く関係ない他人事で、全く別の時の流れや日常があるんだなぁって
逆にこっちで就活やら人間関係やら色々問題あっても、違う場所で簡単に全く関係ない生活を送れてしまうもの
そうなんですよね。報道いかんによっては知ることもなく終わってしまうこともあります。
(11/11)香港大学にも警察が
ついに、ニュースにもなった大きな出来事が起きます。
昨晩、香港大学や香港中文大学にまで警察が乗り込む騒ぎがありました。
今日の授業は全てキャンセルになりました。
いま香港全域で交通機関の運行停止や閉鎖、渋滞などが起きているようです。まさか学問の場である大学まで影響を受けると思いませんでした。
広瀬さんはこの時日本のメディアの取材も受けます。
各大学の位置関係
香港大学は、大きく報道された中文大学・理工大学とは別の島(香港島)の西側に位置しています。
近くには観光名所「Victoria Peak」もあり、比較的平和なエリアです。
(11/13)留学生には次々と帰国通達が
この出来事をきっかけに、各国の大学は香港の留学生に帰国通達を出していきます。
香港中文大学の日本人留学生仲間で日本の大学側から帰国通達を受けた人が出てきました。
韓国の大学も交換留学を打ち切りにし始めている様子。
香港城市大学などは留学生に対し自分の大学で遠隔で授業やテストを受けられるようにするなど対応。個人的にはまだ香港でやることがあるので帰りたくないです。
他の留学生も広瀬さんと同じく「帰りたくない」と思っている人は多いはず。
(11/14)中国本土からの学生も帰国の途に
状況はどんどん変わっていきます。
中国本土からの学生は警察が船まで出して深圳まで避難させたりしているようで、私の寮の子もバンドメンバーの中国人も全員荷物抱えて帰って行きました。
香港大学まわりはまだ大丈夫だし常に情報収集して気をつけていれば普通に生活送れます。
九龍島と香港島で状況が違うのもまた事実。
勉強以上に得るものもあるし、日本側が暴力的なシーンだけを切り取ったメディアだけをみて強制帰国など判断しないでほしいなぁ情報収集が必須なこの情勢下で、必然的に英語や中国語のニュース、SNSを読むようになりました。
そうすると一気に情報のソースが増えて、普段大学の授業でも英語だといかに教育マテリアルが多いか実感してたのですが、改めてこれまで日本語の膜を通ったメディアの中でだけ生きてたんだなと。
特にこのような状況下で日本語ではない現地の情報を取り入れるのは重要ですね。
(11/14)香港大学の授業が全キャンセルに
そしてついに、他エリアの大学と同じく香港大学も今季授業が全てキャンセルになってしまいました。
ああついに香港大学も学期残りのキャンパスでの授業が全てキャンセルになってしまった。
代わりにオンラインに移行するようになる。
グループディスカッションや期末テストなどこれからだったのに各授業どう対応するのだろう?暴力的なシーンだけを切り取ったメディアに影響されないでほしい。
確かに、日常とは違う衝撃的なシーンは視聴率やアクセス数を稼ぎやすいので優先的に流されますね。。。
(11/15)でも地元はいつもと同じ普通の生活
ローカル飲食店である茶餐廳に今朝行ったら、地元の人たちは香港各地のデモの様子がテレビで流れているのを見つつ普通にしていました。
私は大学から徒歩20分くらいの住宅街に住んでいますがこの周辺は全くいつも通りで、一般市民は普通に生活している様子です。
香港の一般市民の方々は普通の生活を送っておられます。
隣接している道路でデモ隊がバリケードを作っていても、何事もないように仕事に従事していますね。
(11/16)オンライン授業の内容は
広瀬さんは地球惑星科学専攻。オンラインだと地質サンプルを手にとることができないのが辛いとのことですが、それ以外はオンラインで何とかなるのだそう。
今HKUはどうオンラインで授業をカバーしてるかというと
- 講義ライブストリーム(実況中に質問も可)
- 学外で集まるかGoogle document上でグループワークしてオンラインシステムで課題提出
- プレゼンをエッセイに置き換え
など地質サンプルなど直接見られないのは辛いですが何とかなるものですね。
(11/16)広瀬さんにも緊急帰国通達が
ここでついに、広瀬さんにも緊急帰国通達が出ます。長文です。でも状況や思いが本当によく伝わります。
本当に残念で悔しくて悔しくて残念だけど、東大の学部長からも国際本部長からも実質緊急帰国命令が出て、強く説得されてしまったので、遅かれ早かれ私も日本に帰るでしょう…
今晩香港大学の日本人留学組で集まったけれど、突然の怒涛の出来事に対するショックと押し寄せる対応事へのストレス、周りの学生が次々帰っていってしまう寂しさ、少し先のことも分からない未来への不安に、みな落ち込んだ雰囲気でした😔
集まりへの行き帰り大学付近の道を歩きながら、これまで毎朝楽しく通っていて時に寝坊して急いで通った通学路がどうしてこんな一瞬で荒廃した地域に変わってしまったんだろうとか、この公園で友達とで飲みながらおしゃべりしたなとか、このデザート屋さんよくバンド練帰りにメンバーと寄ったなとか、ほんとは今日予定されていたキャンパスでのライブのためにここではしゃぎながらポートレイト写真撮影したなとか、香港から色々旅行も出かけてトラブルもたくさん経験したなとか、ああまだ普通に香港の人たちは生活しているのになぜ私は半ばで帰らなきゃいけないんだろうとか。
昨日は空虚な気持ちのまま取材受けたり発信したりできたものの、今日はたまった課題をするためにペンを握ったけどなんか鼓動が早いし、自分では落ち着いているはずなのに一瞬手が震えて力が入らなくてびっくりしました。我ながら楽観的な方だと思ってたのでこんなの初めてです。
別に香港大学まわりは中文大学などに比べたら全然無事な方だし、私も直接的な被害は全くあっておらず、なんなら私の近所はいつも通りの生活が送られているから香港に滞在し続けても大丈夫だろうし、留学は大学での勉強だけのために来た訳じゃないし、その旨と思いを伝えたけれど。日本にいる人たちはわからないでしょと正直思います。でも大学側の説得も分かるし、両親は理解を示してくれているもののこれ以上心配をかけるわけにもいかない。
冷静に考えたら香港大学の今期の単位はオンラインに移行することでなんとか対応してくれるとのことだし、セカンドセメスターから復帰だってできるかもしれないからお先真っ暗というわけではない。
でも冬休みに予定していたインターンや香港の科学技術研究に対する自主調査、企業訪問や自主参加イベントが全部のぞみ薄になってしまい、後期の授業が開講されなかった場合の奨学金の対応、万一のための代わりの留学先探し、もし東大戻った場合の緊急授業編入相談、香港の寮や銀行口座の手続き、オンライン提出に切り替わった積り続ける大学のエッセイやレポート、大学のサンプルが必要な課題に関する各先生への個別相談、などなど考えることと不確定要素が多すぎてつい10年に1度くらいの暗い気持ちになってしまいました。
誰のせいという訳でもないし、国家単位の社会の動きに個人ができることは本当に少なすぎて。
何はともあれ、香港で会った友人、社会人の皆さんなど全ての人と縁に感謝し、香港がまた活気あふれる明るい街に戻ること、留学生仲間達がまた各々の道を見つけて歩めること、あわよくばまた2学期から香港大学に復帰できることを祈りつつ、相談に乗ってくださった全ての人たちのためにまた元気な自分に戻ってできることを一生懸命できますように。
自分の気持ちに整理をつけるためにも、ほとんどのルームメイトが帰って物寂しくなった寮で、ここに気持ちを記させて頂きます。
(11/17)また香港に戻りたい。香港全土が危険なわけじゃない
最後に、核心をついたこんな言葉を残しています。
私は日本の大学側から帰国するよう言われてしまったのでもうすぐ無念の帰国です…
他国の留学生みたくサポートがある訳じゃないのに帰国の圧力強いんだもの。一時帰国で済みますように。
あと、色々大変な留学生活だけど「香港留学行った人かわいそう、不運だね」と言われると全くそうは思っていません
ビクトリアピーク(香港島の山頂)まで行くとデモの影響は微塵もなく、決して香港全土がどこかしこも危険な抗争状態にある訳ではないと実感させてくれますこうして静かに夜景を見ていると香港の夜景はやっぱり綺麗だし、山とか海の自然は全く変わらないのに人間だけが上でドンパチやってるんだなと…
その通りですね。
今後は香港のためにできることをしていきたい
広瀬さんは11/20に日本に帰国されました。
帰国後「今回の件により、香港に限らず日常がこうしていきなり変わってしまいうること、誰も予測がつかない不透明な状況に直面しうることを体感した」と述べています。
広瀬さんは現在、大学と相談しつつ今後のことを前向きに考えており、香港のためにできることをして発信を続けておられます。
本当にここ半月で色々なことが起きたため、生じるストレスも多かったと思います。
香港が落ち着いたらまた元気な姿を見せてください!深センにもぜひ!